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無謬の千年王国にて、衆生を統べる神在れかし。
現人神は不老、不朽、そして不死。
永劫翳らぬ神威と共に、天地へ森羅の理を敷く。
よって、衆生に救済無し……神は人など救わぬゆえに。
遍く命は皆等しく、神天地創生へ捧げる供物なのだから。
ならばこそ、終焉吼竜は許さない。
運命が、終焉が、希望を以て焼き尽くす。
運命に約束された“神祖滅殺”が幕開けるのだ。
新西暦1036年──カンタベリー聖教皇国。
そこは人智を超えた超越者、四柱の神祖が司る巨大な実験場に他ならない。
平和な宗教国家などという謳い文句は、総じてまやかし。嘘偽りの虚飾だった。
神祖の真実は、旧歴崩壊を生き延びた大和の民。よって彼らは日本を崇める教義を唱えた。
民草を己が理想の薪木とくべる、盲目の羊とするために。
そう、この国では生かすも殺すも神々の胸先三寸。
人間には生殺与奪の権利など、その実どこにも存在しない。
丸々と肥やした後で家畜を屠殺するかのように、喜びと幸福を一つ残らず解体しながら欠片も残さず収穫していく。そして闇に葬るのだ。
結果、何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も果てしなく……
繰り返される慈悲無き残酷な神の所業。蹂躙された世界法則に従い、結晶へと変化する何も知らぬ無辜の民草。
燦爛と煌きながら血を喰らい、肉を喰らい、赤子も老人も区別なく、数多の悲鳴を貪りつくして星の樹海が降誕する。
禍々しくも荘厳で、おぞましくも幻想的な光景に報いも咎めも訪れない。
なぜなら、これを望んだ神々は千年王国を築いてきたから。
散らした命の何億倍も、多くの平和を民草へもたらし続けてきたから。
支配体制が確立して早、千年。大多数への幸福という道理を固めた大盾は、すべての嘆きを封殺し続け……
その果てに凝縮していく呪い、怒り――すなわち禍津。
消しても消しきれない屍山血河の業を担い、神へ報いを与えるべく嚇怒の化身が天に吼える。
ふざけるな。認められるか。そんな勝利は糞喰らえだ、と。
壊滅する故郷を前に覚醒する二つの影。厄災の星を轟かせながら、神祖の滅びを希いラグナ・ニーズホッグは邪竜と化した。
絶望を穿て、噛み砕けと。猛る宣誓に応えるかの如く、ミサキ・クジョウも愛する男を血濡れの月で照らすのだ。
よって、神託は下される。銀に煌く大いなる狼の冬と共に。
「おまえは“運命”であらねばならない」
「おまえは“終焉”であらねばならない」
「おまえは“希望”であらねばならない」
ゆえにいざ、終焉吼竜は斯くやあらん。
地獄を超えたその先で、笑顔の花を咲かせるために。
失墜せよ、神々の千年王国。葬想月華は今、此処に運命の車輪を回す。
「汝、希望の殉教者よ――
我が心臓に牙を立て“神殺し”を完遂せよ」