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「ちょっとそこの本、こっちに上げてもらえませんか?」 おれの名前は勾坂一重。 「ちょっとそこの本、こっちに上げてもらえませんか?」 上のほうから声がする。振り返ってみると彼女は脚立の上にいた。 こういうときは愛想よくするのがおれの 「うん。いいですよ。ここのカートの?」 ちょっと見た顔だ。確か同級生。確か同じ3年生。 「どれ? ぜんぶ?」 こちらを振り向くなり、彼女はフリーズした。 「な、何だろう? これじゃなかった?」 「……いいえ。ごめんなさい」 「嫌いって……どうして? 理由は?」 「特にありません、理由なんて。強いて言えば『あなたの名前が嫌いなんです』」 冷たい声でそう言い残して、彼女は歩み去っていった。 ……おれ、彼女に何かした? |