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| メルクリウス | 諸君らは、カチンの森を知っているかな? | 
| ヴィルヘルム | カチン……? | 
| メルクリウス | 左様、それぞれの戦場でも噂になっていたことだと思うが | 
生憎、まったく覚えがない。だが他の奴らは違ったようで、一応の頷きを返している。しかも嫌そうな顔をしてるのが一人や二人じゃなかった。
| ベアトリス | 例の虐殺事件ですね。ポーランド人の捕虜たちが、帰国の途中で何万人も行方を絶ったという | 
| ルサルカ | そしてカチンの森から死体がざくざく。なんかドイツの側がやったことになってるんでしょ、あれ | 
| ルサルカ | 別に虐殺自体はどうでもいいけど、身に覚えのないことで文句言われるのは気に食わないわね。いやまあ実際、こっちがやったのかもしれないけれど | 
| ベアトリス | 状況的には、ソ連の仕業としか思えないと聞きましたが | 
| メルクリウス | その通り。しかし、あちらも易々と認めはしない。戦時に馬鹿馬鹿しい話だが、人道上の建前というものがあるのでね | 
| メルクリウス | 誰しも己の側に大義があるという理屈を通したがる。ゆえにゲッベルス卿がプロパガンダをしているのだが、ここ数年はどちらがやったやらぬの水掛け論だな | 
| メルクリウス | 私としても事の真相が気に掛かってはいるものの、この場に限って言えば関係ない。問題は別にある | 
つまり、それをどうにかしろということか。話の流れを理解した俺たちに、メルクリウスは短く告げた。
| メルクリウス | カチンの森で怪異が続発しているとのことだ。これを駆逐してもらおう | 
| メルクリウス | なぜ、とはもはや言うまい? | 
問いに、俺たちは無言の肯定を返していた。この手の命を受けることは初めてじゃない。
| ラインハルト | 消え行く神秘の断末魔だ。カール曰く、前座の締め括りとしては申し分ないらしい | 
| ラインハルト | 我々が成すべきことを成すために、排除すべきものを排除せよ | 
了解――そろって全員が頷いた。そうだよ、これは必要なことで、大まか二つの意味がある。
訓練と予防攻撃。神秘とやらの領域に足を踏み入れている俺たちは、同種と戦うことで己の力に理解と進化を促せる。
そしてそれは、近く始まるであろう本番を前に邪魔な奴らを消すという意味にも繋がるんだ。なぜなら俺たちを止められる者がいるとすれば、同じく神秘の領域にある存在。
障害になるかもしれない輩をあらかじめ潰しておく。大事の前には当然であり、異を差し挟む余地はない。
ではさて、誰が行くかなんだが……
| ラインハルト | バビロン、卿だ。誂え向きであろう。期待している | 
| リザ | はい、承りました。必ずや | 
やはりか、妥当な人選だと俺は思った。怪異の正体は聞いてないし不明だが、現場が死体だらけの森だというなら適任は自ずとそうなる。
が、頭で分かっちゃいても感情の面は別だった。これが前座の締め括りなら尚のこと、待ってるだけじゃあつまらねえ。
そもそも、わざわざ召集かけて雁首そろえた事実がある以上、全員とは言わないまでも何人か投入する気があったんじゃないのか?
| メルクリウス | ふふ、ふふふふ…… | 
そう期待しつつ顔をあげた俺に向け、メルクリウスは笑っていた。あの全容が知れない、胸糞の悪くなる佇まいで。
| メルクリウス | 暇でしょうがないかな、ベイ | 
| メルクリウス | ならば結構。おまえもカチンへ行くがよい。命じられたのは先の通りバビロンゆえ、同行するなら彼女の指揮下に入ってもらうが | 
| メルクリウス | 他の者らも、行きたければ志願せよ。バビロンが許す限りこれを認める | 
| メルクリウス | 我々こそが最後、かつ最強の神秘であると自負し、その気概を黄金に示したいと言うなら止めはせぬ | 
| メルクリウス | ということで、よろしいかな? | 
| ラインハルト | ああ、構わん。最後の腕試しだ、存分にやるがいい | 
| ラインハルト | 特にベイ、卿にとっては意味あるものとなるだろうよ | 
| ヴィルヘルム | はッ―― | 
応え、武者震いが身を走った。正直このとき、クラウディアを不本意ながら城に連れて来たことや、その意図なんかは綺麗さっぱり忘れちまったよ。
ハイドリヒ卿の求めに応じて牙を揮う。それが俺にとって、今も変わらず最大の名誉であり生きる目的なんだからな。
 



