(※セリフ部分をクリックすると音声サンプルが試聴出来ます)
#月夜 気がつきましたか?
#恭一 ……月夜
覗き込んでくる月夜の顔。ぼんやりと見つめ返す。
#月夜 どこか、痛いところ、あります?
#恭一 ……いや、別に
それよりも、その、
#恭一 俺、どうなったんだ?
#月夜 階段から転げ落ちたんですよ
目線を逸らすこともなく、穏やかに微笑んだままで教えてくれた。
…不意に思った。まるで、母さんみたいな笑い方だと。
#月夜 あんまり、びっくりさせないでください
#恭一 …すまん
ちらりと視線を動かして、周囲の状況を窺った。
神社の石段の、一番下の辺りに寝ころんでいた。
かぁぁっ、と、一気に顔が赤くなるのを自覚した。
#月夜 …どうしました?
#恭一 す、すまん!
飛び退くように、慌てて身体を起こしていた。
#月夜 きゃ…、そんなに急に動かない方が
#恭一 いや! もう全然平気だから!
…まいった。
心臓、バクバクいってるし。
#月夜 くすす、恭一くんったら
何が可笑しいのか、突然、月夜の奴がくすくすと笑い出す。
#恭一 な、何が面白いんだよ?
秘かに呼吸を整えながら、憮然とした顔をしてみせる俺。
#月夜 いえ、ちょっと、安心しちゃって
#恭一 ……すまん
頭を掻きながら、無理矢理目線を逸らしていた。
…だって、自分のうろたえぶりが、恥ずかしくてたまらなかったから。
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#月夜 脳しんとうかも知れないですから、しばらく無理に動かないでくださいね
#恭一 …あ、ああ
彼女の手のひらが、そっと俺の髪を撫でていた。
細い指先の感触に、思わずうっとりと目を細めてしまう。
何だか突然、子供に戻ったみたいな錯覚。
甘えた気持ちで身じろぎをして、彼女の太股に頬を埋めていた。
#月夜 くす…、恭一くんったら
膝枕をしてもらうなんて、一体何年ぶりだろう。
懐かしさと、心地よさ。穏やかに、甘い香りを堪能しようとして――
#恭一 ……って
#月夜 恭一くん?
膝枕? 太股?
自分が何をしているのか、ようやくのことで理解する。
#恭一 ぅあ
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