――だがその瞬間、信じがたい光景が眼前に現出した。
そこにいたのは、あの尾崎と名乗った風来坊。 彼の諸手に、突如として身の丈をも超えるほどの異形の鉄塊が発生したのだ。 どこにも隠し持てるサイズではなく、宙から湧いて出たとしか言いようがない。
それは恐ろしく歪な形状をしてはいるが、ある種の剣や鎌のようにも見える。 要するに、何かを切り裂く用途を帯びた重質量の物体だ。
そして――その先端部が涙滴型に湾曲した分厚い刃を、振りかぶった大上段から豪快に一閃。
迫りくる怪物の巨体を、異形の鉄塊で据物斬りに両断してのけた。
いや……あれは刃にすら触れてはいない。 鉄塊が虚空に抉り抜いた斬撃の軌跡が刀身を離れて奔り、その数メートル先の延長線上にあった敵を真っ二つに斬り裂いたのだ。