蓮 「…………」
なんだろう、これは。俺のベッドに妙な物体が横たわっている。
マリィ 「……んん」
しかも気持ちよさそうに、むにゃむにゃと寝息を立ててる。
蓮 「…………」
ああ、疲れてるんだな、俺。
昨夜は本当に修羅場だったし、欝になりそうな夢も見たし、加えてこれから、どのように戦っていこうかとか……そんな問題てんこ盛りだし。
幻覚にしてはまた随分とリアルだが、たまにはこういうこともあるだろう。世の中不思議が一杯だから、分からないことは考えずに、もっかい寝てしまったほうがいい。うん、だからおやすみ。
そうして目を閉じたんだが、なんかその、上手く言えないけど……抱きついてきてないですかこの幻覚。
マリィ 「…………」
蓮 「…………」
なんで裸なんだよおまえ。
危うく飛び起きようとしたそのときに、幻覚が目を開いた。
マリィ 「…………」
蓮 「…………」
そして見詰め合うこと数秒。
大きな緑の瞳が、きょとんとした感じで俺の顔を覗き込んでる。
そして小さな口が開き。
マリィ 「おはようございます、レン」
蓮 「…………」
マリィ 「いい天気ですね」
うん、まあ、そうね。
幻覚――ていうか、もういい加減そんなボケをやってても仕方ない。
蓮 「……マリィ?」
マリィ 「はい」
なぜ彼女がここにいる?
蓮 その、悪い、よく分かんないんだが……
マリィ 「これからは一緒だって言いました」
蓮 「…………」
いや、言ったけどさ。俺が知りたいのはそういうことじゃなく、この事態がどういう原理で起きているのかということで。
なんの理論も説明もなく、可愛いからいいじゃんとか、愛の奇跡だとか、そういうトンでもファンタジーを容認できるほど俺は幸せな頭じゃないんだよ。
って、言ってもなぁ……
マリィ 「……?」
問い質したところで、彼女が答えられるとは思えない。
えっと、つまり、なんだ。無理矢理かつ強引に理論だてるとすればこんなところか。
俺は聖遺物を具現化する形成を覚えたから、それに宿っているマリィも形成することが可能になった。
と、そういうことになるのだろうか。
だったら俺の意志ひとつで、出し入れ可能なはずなんだけど。
マリィ 「レン、ヘンな顔」
ああ、そりゃヘンな顔だろう。
マリィ 「ちょっと、寒いです」
いやだから、抱きついてくるのやめろって。
キミ裸だし、出るとこ出てるし、あんまり動くとあたるっていうか見えるっていうかあぁもう、なんだこの真っ白さんは。俺の十倍近い歳のくせにガキんちょかよ恥じらい持てよ。
マリィ 「あったかい」
蓮 「…………」
マリィ 「ふふふ……」
駄目だこれ。
男女七つにして席を同じゅうせず――とかなんとか、我が国の素晴らしい価値観を説いて聞かせても、分かってもらえるとは思えない。
そもそも彼女の事情を鑑みると、ここで無碍に扱うのは人道に反するような気もするし。
マリィ 「気持ちいいね、レンの身体」
そういう誤解を招くような発言は今後控えてもらうとして、とりあえずまあ、もうしばらくの間は……
マリィ 「ぎゅってして」
蓮 「……了解」
ご要望に応えたほうがいいのだろう。満足したら戻ってくれるかもしれないし……
マリィ 「くすぐったい」
だからその、なんていうか弁解しておきたいんだが、これは迷子の子供の頭を撫でているようなものであり、別によこしまな気持ちは全然……てことはないけど可能な限り抑え込んでる状況なんだよ。
蓮 「なあ、てわけであんまりごそごそ動かないでくれ」
マリィ 「どうして?」
蓮 「男も色々と大変なんだよ」
マリィ 「おとこ?」
不思議そうな顔をして、マリィはぺたぺたと俺の胸に手を這わす。
マリィ 「……ない」
そりゃないに決まってんだろ。
てか、おい、ちょっと待て。その手ダメだから、こら、動かすなっての。
香純 「う〜〜〜ん、うるさいぃ……」
蓮 「…………」
マリィ 「…………」
すごいな、今度は幻聴か。いま、ありえない声を聞いたような気がするぞ。
香純 「ごはんはあとで作るからぁ〜、もうちょっと寝るぅ〜〜」
蓮 「…………」
オーケー、もう一度状況を確認しよう。
目の前にはマリィ。俺が形成したのか自分の意志で出てきたのか知らないが、とりあえず今すぐ消えそうにはない裸の女の子が同衾している。
そして俺の後ろには……
香純 「日曜なんだしぃ、のんびりさせてよぉ〜〜」
ベッドに突っ伏すようなかたちで、寝言のような愚痴を言ってる香純がいた。
何これ? どんな異次元デスカ? マリィはともかく、なんでおまえが……
蓮 「……あ」
なるほど、つまりそういうことか。昨晩俺は、あのまま意識を失ったんだ。
そして世話焼きであるこいつは、夜通し看病してくれたと。
なんてありがたい幼なじみだ。とても嬉しいし感謝もしてるが、おかげで洒落になってねえ。
蓮 「マリィ」
マリィ 「ん?」
こんなところを香純に目撃されたら血の雨が降る。