
玲愛 「もうすぐ、私の誕生日」
玲愛 「ねえ藤井君、前にプレゼントくれるって言ったよね」
自嘲するように、先輩は呟く。
玲愛 「物はいらないから、ひとつだけ言うことを聞いてほしい」

それはこの人らしくない、憂いを帯びた口調。
俺は、彼女が何を言おうとしているか分かっていた。
分かっていながら、止めることが出来なかった。
玲愛 「もう逢いたくない」
その一言を。
玲愛 「二度と私に逢わないって約束して」
彼女が、どんな気持ちで言っているかを知っていたから。
玲愛 「学校、楽しかった。キミがいて、
綾瀬さんがいて、遊佐君がいて、私こんなだから分かり難いかもしれないけど、キミたちが大好きだよ」
玲愛 「だから……」
眼下に広がる諏訪原市……すでに日は落ちかけて、街は黄昏に染まっている。
じきに夜だ。
そして夜が訪れたら、この人は……
玲愛 「もう終わりにしよう」
玲愛 「でないとキミ、死んじゃうよ」
蓮 「…………」
玲愛 「勝てるわけない」
こんなとき、どうすればいいんだろう。どんな顔で、何を言えばいいんだろう。
心配要らないって強がるか?
死ぬより怖いことがあるってぶっちゃけるか?
どれも駄目だ。この人はそんな答えを期待してない。
だから……いま俺に出来ることなんて。
蓮 「分かりました」
あらゆる感情を断ち切って、短くそう言うことだけだった。
……まったく、ここ最近で随分嘘が上手くなった気がするな。
逢うなと言うならそうしよう。だけど先輩、残念ながら、すべてあなたの思惑通りに動く気はない。
蓮 「さようなら、氷室先輩」
これ以上余計なことは口にしない。俺が今誓ったことを、意地でも彼女に悟らせない。
どうか生きて。
あなたを縛っているあの男を……
ヴァレリア・トリファは俺が殺す。
