
司狼 「うるせえ」
――轟音。
一発、二発、そして三発。問答無用と言わんばかりに、司狼の銃が火を噴いた。
司狼 「こっちが話してる最中だろうが、口挟むなよ白髪野郎」
蓮 「…………」
相変わらず、こいつは恐れというものを知らない。人に向けて何の躊躇もなく発砲したことといい、前よりイカレ具合が増している。だが、とはいえ、今回ばかりは相手が悪い。
ヴィルヘルム 「……おい、進歩のねえガキだな、おまえも」
呆れというより、鬱陶しいといった風情で撃たれた胸を払うヴィルヘルム。ひしゃげた弾丸が音を立てて、舗装された地面に落ちた。
ヴィルヘルム 「前にも言ったろ、学習しろや劣等人種」
奴らに銃など通用しない。これでおまえも分かったろう。

蓮 「一緒に戦ってくれなんて頼んでない。
悪いことは言わないから、早く逃げろよ」
司狼 「まったく……つれないねえ、
どいつもこいつも」
なのにこいつは、この状況でも笑っていた。
司狼 「なあ蓮、あいつオレにやらせろよ。
チンピラはチンピラ同士、優等生は優等生
同士……
おまえ、女丸め込むの得意だろ?」
何を根拠に、そんなことを言っているのか……そのトボケた余裕はどこからくるのか。
司狼 「二対二でちょうどいい。オレはあいつで、おまえは――」
櫻井。
確かに今日の目的はこいつを斃すことだったが、ヴィルヘルムは洒落が通用する相手じゃない。
迷惑なんだよ。おまえの心配なんかしちゃいないが、それでも勝手に死なれた日には、香純になんて言えばいいというんだ。
螢 「つまらないわね」
だがそんな俺の葛藤を、一蹴するような櫻井の声。
螢 「もう手遅れよ。だって――」
ヴィルヘルム 「今さら逃がすと思ってんのか、これも前に言ったよなぁ」
ヴィルヘルム 「俺を攻撃した以上、次なんかねえ」
すでに賽は投げられている。退くことなど出来やしない。
ならせめて、どちらか一人を二対一で潰してしまうのが最善の策だろう。時間はかけられない。一瞬で。可能ならば強い方――つまりヴィルヘルムを叩き潰す。
そしてそのためには、ツレとの完璧な意思疎通が必要なのだが……
司狼 「ところで、今月の星占いにあったんだけどよ」
司狼 「オレってほら、魚座じゃん? どーも蟹座と相性いいらしいのよ」
蓮 「…………」
こいつが何を考えてるのか、俺にはまるで分からない。
司狼 「おまえ何座だったっけ?」
蓮 「…………」
司狼 「動物系だっけ? 物系だっけ? つーかおい、ノリ悪いんだよさっきから」
司狼 「おまえもしかして、ギョーザとかヤクザとかブリザード級のギャグ言おうとしてるんじゃないだろうな」
蓮 「んなワケないだろ」
やっぱりこいつ、死んだほうがいいかもしれない。俺は深く溜息をつき、背中越しの馬鹿に告げた。
蓮 「フォローなんか期待するなよ」
司狼 「そりゃオレの台詞だっつの」
まったく、ホントに、なんで今さらこいつと肩を並べなければならないのか。もう会うこともないと思っていたのに、腐れ縁にもほどがある。
司狼 「喧嘩のケリは、どっちがこれに生き残るかで着けようや」
それはまるで、どちらかが死ぬような言い草だったが……
ヴィルヘルム 「じゃあ、てめえらよ――」
ヴィルヘルムの右手から、刹那禍々しい波動が迸る。
聖遺物の活動。形成しないがゆえに不可視のそれは、少なくとも司狼の目に捉えられるものじゃない。
ヴィルヘルム 「そろって死ね」
虫でも捻るような気軽い調子で、見えない杭が俺たちを串刺しにせんと放たれた。
